
筆者、執行草舟は「葉隠」に生きる現代の武士だ。読書家、実業家、芸術家等、多彩な顔を持つ彼は、齢69にして3万冊の古典を読み込んだ日本人の魂だ。本書で彼は「死生観を持つことの大切さ」を一貫して解いており、ルネサンスのヒューマニズムに端を発する、物質主義、功利主義、合理主義を完全に否定している。死生観、つまり死に方を定めることで日々の過ごし方が変わり、得を求めず不合理な生き方を覚悟して生きることで、運命に体当たりをし、精神、魂を成長させることができるのだ。魂に生きた人物の一例として鑑真を挙げている。中国にて最高の地位を築いた鑑真が、一切の財産や地位、皇帝からの信頼を投げ打ち、ただ法のために自らの命を危険に晒してまで、日本に法を伝えたのだ。彼の生き方に我々の魂は共鳴し、日本人の魂は鑑真の慟哭を感じる。自らの命よりも大切なもののために生きること、すなわち魂を成長させる生き方をすることを筆者は「垂直の生き方」、「憧れに生きる」と表現している。我々は垂直に生きなければならない。
令和の時代は垂直に生きることが難しい時代になってしまった。電車や街中の至る所に広告を貼り、購買欲を徹底的に煽ることによって、消費者を先導し、物質主義の波へと彼らを無意識のうちに飲み込んでしまっている。テレビやYoutube等の映像媒体も小学生が理解できる程度の簡単明快なフィクションを垂れ流すことで、我々なにも考えることなく、ただ映像を消費する受動的な視聴者と成り果ててしまった。スポーツや映画、ドラマは政治への関心を巧みに避ける駒であることを認識せず、日常の最上の楽しみに成り果ててしまった。しかも、その内容は功利主義や物質主義、合理主義を背景に潜め、視聴者の潜在意識へと静かに入り込んでいく。上記のような実態が我が国の現状だ。なにも考えずに生きていれば『水平な生き方』つまり魂を手放す生活、物質優先の生活になってしまうことは已むおえないことがわかるだろう。魂を手放せば令和の時代には得がしやすくなり、お金は稼ぎやすくなる。しかし、魂を手放すということは日本を建国し、日本のために命を尽くしてきた先人たちの歴史を断つことに他ならない。
しかし、魂を現代でも保ち続ける方法が一つある。それは読書だ。魂に生きた人物の書物を読み漁り、特に古典に深く触れることによって、先人との魂の交流を果たすことができる。本書は古典を3万冊読み込んだ筆者の生命の滴が至る所に散りばめられている。
人生に悩む全ての人が読むべき魂の一冊。さぁお試しあれ。